ハネソル株式会社
パスキーの仕組みを図解|顔認証・PIN・公開鍵・フィッシング対策まで詳しく解説

パスキーの仕組みを知れば安全性の理由がわかる

最近、銀行、証券会社、ECサイト、会員サービスなどで「パスキーを登録してください」「パスキーでログインできます」という案内を目にする機会が増えました。

しかし、パスキーについて説明すると、多くの方から次のような質問を受けます。

  • パスキーとは、顔認証や指紋認証のことですか?
  • カメラや指紋センサーがないパソコンでは使えないのですか?
  • PINは4桁や6桁なのに、本当にパスワードより安全なのですか?
  • 顔や指紋の情報は、銀行やGoogle、Appleのクラウドへ送られているのですか?
  • ボタンを押して顔を見せるだけなのに、なぜフィッシング対策になるのですか?

これらは、どれも自然な疑問です。画面上では数秒で認証が終わるため、裏側でどれほど多くの確認が行われているのかが見えにくいからです。

パスキーは、顔認証や指紋認証そのものを指す名称ではありません。

パスキーの本質は、公開鍵と秘密鍵という2つの鍵を使い、パスワードのような秘密情報をWEBサービスへ送らずに、本人であることを証明する仕組みです。

顔認証、指紋認証、PINは、その秘密鍵を使ってよい人物かどうかを、手元の端末が確認するための方法です。

さらにパスキーでは、Chrome、Safari、Edgeなどのブラウザと、Windows、iPhone、Androidなどの端末側が、現在開いているWebサイトのドメインを確認します。正規サイト用に作られたパスキーを、見た目だけを似せた別ドメインの偽サイトから利用することはできません。

パスキーが安全なのは、顔認証の精度が高いからだけではありません。

秘密を送らない、サービスごとに異なる鍵を使う、正しいドメインであることを端末側が確認する、本人確認に成功したときだけ秘密鍵を使う。この複数の仕組みが組み合わされていることが、安全性の本質です。

このページでは、開発者向けの仕様書やプログラムコードではなく、パスキーの仕組みをもう少し深く知りたい方を対象に、普段使っているWindows、iPhone、Android、Chrome、Safari、Edgeなどの具体例と結び付けながら解説します。

パスキーを顔認証そのものだと思って疑問を持つ一般利用者と、実際には端末内の鍵、Webブラウザ、WEBサービスが連携していることを対比する横長16対9の法人向けフラットイラスト。左側に顔認証、指紋認証、PINのアイコンを見ながら首をかしげる男女、右側にスマートフォン、ノートパソコン、鍵ペア、正規Webサイト、確認済みの盾を配置する。添付参考画像のような明るく親しみやすい手描き風、白を基調に淡い青と青緑、細い濃紺の輪郭線、清潔感のあるオフィス背景。画像内の文字は『顔・指紋・PIN』と『パスキー』程度の最小限にする。

1. パスキーは顔認証や指紋認証の名前ではない

1-1. パスキーは「ログイン用の鍵の仕組み」

パスキーを一言で説明すると、利用者の端末やパスキー管理サービスが保護している鍵を使って、WEBサービスへログインする認証方式です。

パスワード認証では、利用者が覚えている文字列を入力し、その文字列をWEBサービス側で確認します。

一方、パスキーでは、利用者が秘密の文字列を覚えたり、入力したりする必要がありません。利用者側にある秘密鍵を使って、その鍵を正しく持っていることを証明します。

方式 利用者が行うこと サービスが確認するもの
パスワード 秘密の文字列を入力する 入力された文字列が正しいか
OTP 届いた一時的な番号を入力する 番号が正しいか
パスキー 端末上で顔・指紋・PINなどを使って確認する 登録済みの秘密鍵による正しい署名か

1-2. 顔認証・指紋認証・PINは「鍵を使ってよいか」の確認

顔認証や指紋認証は、WEBサービスのサーバが利用者の顔や指紋を照合するためのものではありません。

たとえば銀行サイトへパスキーでログインするとき、銀行側が利用者の顔画像を受け取り、銀行が保有する顔写真と比較しているわけではありません。

実際には、Windows、iPhone、Androidなどの手元の端末が、この端末に保存または連携されているパスキーを使ってよい人物かを確認しています。

  • 顔認証:端末が登録済みの顔と照合する
  • 指紋認証:端末が登録済みの指紋と照合する
  • PIN・パスコード:端末に設定された番号や文字列と照合する

確認に成功すると、端末側で秘密鍵を使った署名処理が許可されます。WEBサービスへ送られるのは、顔画像や指紋画像、PINそのものではなく、鍵を使って作られた認証結果です。

1-3. カメラや指紋センサーがないパソコンでも使える

パスキーは生体認証そのものではないため、カメラや指紋センサーがないパソコンでも利用できます。

Windowsパソコンを例にすると、利用できる確認方法は環境によって異なります。

  • 対応カメラがある場合:Windows Helloの顔認証
  • 指紋センサーがある場合:Windows Helloの指紋認証
  • 生体認証装置がない場合:Windows Hello PIN
  • スマートフォンにパスキーがある場合:QRコードを使ったスマートフォン認証
  • 外付けの認証器を使う場合:USB・NFC対応のセキュリティキー

つまり、顔認証はパスキーを利用する手段の一つであり、必須条件ではありません。

カメラや指紋センサーがないパソコンでもパスキーを利用できることを示す横長16対9の法人向けフラットイラスト。中央にノートパソコンを置き、周囲にWindows Helloの顔認証カメラ、指紋センサー、数字PIN入力、スマートフォンのQR認証、USBセキュリティキーの5つの選択肢をアイコンで配置する。添付参考画像に近い明るい手描き風、白背景、淡い水色と青緑、濃紺の細い輪郭、人物は安心した表情。画像内の文字は『顔』『指紋』『PIN』『スマホ』『セキュリティキー』だけに限定する。

2. 顔認証・指紋認証・PINは、どこで管理されているのか

2-1. 顔や指紋の情報はWEBサービスへ送られない

パスキーの説明で特に多い誤解が、顔や指紋の情報がログイン先のWEBサービスへ送られているというものです。

しかし、顔認証や指紋認証の照合は、原則として利用者の端末側で行われます。

たとえば、iPhoneでFace IDを使って証券会社へログインした場合、証券会社が利用者の顔画像を受信しているわけではありません。iPhoneが端末内で本人確認を行い、その結果としてパスキーを使った署名を作成します。

WEBサービスが知る必要があるのは、顔や指紋の中身ではありません。

登録済みのパスキーを利用し、正しい認証結果が返されたかどうかを確認できればよいのです。

2-2. Windows Helloの場合

Windowsでは、Windows Helloが顔認証、指紋認証、PINなどを利用して、パソコンを操作している人物を確認します。

ChromeやEdgeでパスキー認証を開始すると、Windowsの本人確認画面が表示されます。そこでWindows Hello PINを入力したり、顔や指紋を認識させたりします。

このとき入力したPINは、ログイン先のWebサイトへ送られません。Microsoftやブラウザへログイン用パスワードとして送信されるものでもありません。あくまで、そのWindows端末上で秘密鍵の利用を許可するための確認です。

2-3. iPhone・iPad・Macの場合

Apple製品では、Face ID、Touch ID、端末のパスコードを使ってパスキーの利用を許可します。

パスキーはiCloudキーチェーンやAppleの「パスワード」アプリから確認でき、同じApple Accountを利用する端末間で使える場合があります。

ただし、同期されたパスキーを別のiPhoneやMacで使う場合でも、その端末に登録されているFace ID、Touch ID、パスコードで本人確認します。顔画像や指紋画像がWebサイトへ送信されたり、別端末へコピーされたりするわけではありません。

2-4. Androidの場合

Androidでは、Googleパスワードマネージャーなどがパスキーの保存や利用を担当します。

認証時には、Android端末の指紋認証、顔認証、PIN、パターンなど、普段の画面ロック解除に使っている方法が表示されます。

ここでも、ログイン先のWEBサービスが指紋やPINを取得するわけではありません。Android端末側で確認が完了した後に、パスキーによる署名処理が行われます。

2-5. パスワードマネージャーやセキュリティキーの場合

パスキーは、Apple、Google、Microsoftの仕組みだけに保存されるとは限りません。

1Passwordなどのパスキー対応パスワードマネージャーや、USB・NFC対応のセキュリティキーに保存する構成もあります。

つまり「パスキーはスマートフォンの中にしか存在しない」というわけでもありません。利用するOS、ブラウザ、パスキープロバイダー、セキュリティキーによって、鍵を保護する場所や利用方法が変わります。

Windows、iPhone、Android、パスワードマネージャー、USBセキュリティキーでパスキーが管理される代表例を横並びで示す横長16対9の法人向けフラットイラスト。WindowsノートPCにはWindows Hello、iPhoneにはFace ID、Androidには指紋、クラウド型パスワードマネージャーには鍵付き保管庫、USBキーには物理キーを描く。顔や指紋のデータは各端末内に留まり、WEBサービスにはチェック済みの認証結果だけが届く構図。添付参考画像のような明るい青・青緑系、白背景、親しみやすい人物と柔らかい線。画像内の文字は『Windows』『Apple』『Android』『Password Manager』『Security Key』程度に限定する。

3. 4桁や6桁のPINでも、なぜパスワードより安全なのか

3-1. PINとWebサイトのパスワードは、同じ数字でも役割が違う

「PINは4桁なら1万通りしかないので、簡単に破られるのではないか」という疑問はもっともです。

しかし、Windows Hello PINやスマートフォンのパスコードは、Webサイトへ送るパスワードとは攻撃条件が異なります。

比較 Webサイトのパスワード 端末のPIN
利用場所 インターネット上のログイン画面 登録された特定の端末内
送信先 WEBサービスへ送信される WEBサービスへ送信されない
遠隔試行 世界中から試行される可能性がある 原則として端末を手元に持つ必要がある
失敗制御 サービス側の設計による OSによる待ち時間、試行制限、ロック等が使われる
使い回し 複数サイトで同じ文字列を使い回しやすい その端末を解除するためだけに使われる

3-2. PINを知っているだけでは足りない

端末PINを使ってパスキー認証を行うには、通常は次の2つが必要です。

  1. パスキーを利用できる端末を物理的に持っていること
  2. その端末のPINを知っていること

離れた場所にいる攻撃者が、WebサイトへPINを送り続けて総当たりすることはできません。PINの照合は、その端末のOSやセキュリティ機能の中で行われるからです。

3-3. 短いPINでも無制限には試せない

Windows、iPhone、Androidなどでは、PINやパスコードを何度も間違えると、入力待ち時間が長くなったり、端末がロックされたり、追加の復旧手続きが必要になったりします。

このような仕組みによって、端末を盗んだ人物が短時間で何千回、何万回と自動試行することを難しくします。

PINは、桁数だけを見て安全性を判断するものではありません。

端末を持っていること、端末内だけで照合されること、失敗回数が制御されること、鍵がOSやハードウェアの保護機能と組み合わされていることを含めて評価する必要があります。

Webパスワードと端末PINの攻撃条件の違いを対比する横長16対9の法人向けフラットイラスト。左側は世界中の攻撃者がインターネット経由でパスワード入力画面へ試行する構図、右側は手元の1台のノートPCまたはスマートフォンとPIN入力、端末ロック、試行回数制限の盾を描く。『4桁だから弱い』という疑問を持つ人物が、端末内限定である説明を受けて納得する表情。添付参考画像のような明るい青・青緑の手描き風、白背景、図内の文字は『Web Password』『Device PIN』『Local Only』程度の最小限にする。

4. パスキーを支える「公開鍵」と「秘密鍵」

4-1. パスキーでは2つの鍵をペアで使う

パスキーの安全性を理解するために欠かせないのが、公開鍵暗号方式です。

公開鍵暗号では、次の2つの鍵をペアで利用します。

  • 秘密鍵:利用者側の端末、認証器、パスキープロバイダーなどで保護される鍵
  • 公開鍵:ログイン先のWEBサービス側へ登録してよい鍵

公開鍵と秘密鍵は数学的に関係していますが、公開鍵から秘密鍵を現実的な時間で割り出すことはできません。

4-2. WEBサービスが保存するのは公開鍵

パスワード方式では、WEBサービスは入力されたパスワードが正しいか確認できる情報を保管します。その情報が漏えいすると、解析されたり、別のサービスへの不正ログインに使われたりする危険があります。

パスキーでは、WEBサービス側に登録される中心的な情報は公開鍵です。

公開鍵は秘密情報ではありません。公開鍵だけを取得しても、本人の秘密鍵を使った正しい署名を作ることはできません。

4-3. 秘密鍵はログイン先へ送られない

ログイン時に秘密鍵そのものをWEBサービスへ送ることはありません。

秘密鍵は、端末やパスキープロバイダーの管理下で使われ、WEBサービスから届いた一度限りの情報に対する署名を作ります。

WEBサービスへ返るのは署名結果です。WEBサービスは、登録済みの公開鍵を使って、その署名が正しいかを確認します。

4-4. 「金庫と印鑑」のイメージで考える

完全に同じではありませんが、イメージをつかむために、秘密鍵を金庫の中の特別な印鑑に例えてみます。

  1. WEBサービスが、その場限りの書類を端末へ渡す
  2. 利用者が顔・指紋・PINで金庫を開ける
  3. 金庫の中から印鑑を取り出さず、金庫内で書類に印を付ける
  4. 押印済みの結果だけをWEBサービスへ返す
  5. WEBサービスが登録済みの公開鍵で本物の印か確認する

パスワードのように、本人しか知らない合言葉を相手へ伝える仕組みではありません。

公開鍵と秘密鍵の役割を、端末内の金庫と署名に例えて示す横長16対9の法人向けフラットイラスト。左に利用者のスマートフォンまたはPC内の鍵付き金庫、その中に秘密鍵、右にWEBサービスのサーバと公開鍵を配置する。WEBサービスから一度限りの書類が届き、端末内で署名され、署名済みの結果だけが戻る矢印を描く。秘密鍵は金庫から外へ出ないことを明確に表現する。添付参考画像に近い淡い青・青緑、白背景、柔らかい手描き風。画像内の文字は『秘密鍵』『公開鍵』『署名』だけに限定する。

5. パスキーでログインするとき、裏側では何が起きているのか

5-1. 画面上は簡単でも、複数の確認が行われている

利用者から見ると、パスキーのログイン操作は非常に簡単です。

  1. 「パスキーでログイン」を選ぶ
  2. 顔・指紋・PINなどで確認する
  3. ログインが完了する

しかし、裏側ではWEBサービス、ブラウザ、OS、認証器が連携し、複数の確認を行っています。

5-2. WEBサービスが一度限りの問題を出す

ログインが始まると、WEBサービスはランダムな一度限りの情報を生成し、ブラウザへ送ります。

この一度限りの問題を、パスキーの技術用語ではChallenge(チャレンジ)と呼びます。

毎回違うChallengeを使うことで、以前の認証結果を保存しておき、後からそのまま再利用する攻撃を防ぎます。

5-3. Chrome・Safari・Edgeが端末の認証機能へ渡す

Chrome、Safari、Edgeなどのブラウザは、WEBサービスから受け取った認証要求を、Windows Hello、iPhone、Android、セキュリティキーなどの認証機能へ橋渡しします。

仕様上、このブラウザ側の役割をWebAuthn Clientと呼びます。ただし、一般の利用者から見れば、普段使っているWebブラウザがこの役割を担当していると考えれば十分です。

5-4. 端末が本人確認後に署名を作る

端末は顔、指紋、PINなどで、そのパスキーを使ってよい人物かを確認します。

確認に成功すると、秘密鍵を使ってChallengeに対する署名を作ります。秘密鍵そのものはブラウザやWEBサービスへ渡しません。

5-5. WEBサービスが公開鍵で答え合わせをする

WEBサービスは、登録時に保存した公開鍵を使って署名を検証します。

単に署名が正しいかを見るだけではなく、今回発行したChallengeへの回答であるか、正しいWebサイト向けの認証であるかなども確認します。

これらの確認にすべて成功した後で、利用者をログイン状態にします。

ここで登場する用語

パスキー用語 具体例
RP パスキーでログインを受け付ける銀行、証券会社、ECサイト、会員サイトなどのWEBサービス側
WebAuthn Client Chrome、Safari、Edgeなど、WEBサービスと端末の認証機能を仲介するブラウザ側
Authenticator Windows Hello、iPhone、Android、セキュリティキーなど、鍵を扱い署名を作る認証器

パスキーの通常ログインを、利用者、Webブラウザ、端末の認証器、WEBサービスの4つの場面で左から右へ示す横長16対9の法人向けフラットイラスト。WEBサービスが一度限りのChallengeを送り、Chrome・Safari・Edgeをイメージしたブラウザが仲介し、端末で顔・指紋・PIN確認後に秘密鍵で署名し、WEBサービスが公開鍵で検証する。秘密鍵は端末から出ず、署名だけが戻る。添付参考画像のような明るく清潔なオフィス調、淡い青と青緑、柔らかな人物イラスト。画像内の文字は『Challenge』『本人確認』『署名』『検証』だけにする。

6. なぜパスキーはフィッシングサイトに強いのか

6-1. パスワードは、人が正規サイトか判断して入力する

パスワード認証では、利用者がログイン画面を見て、正しいWebサイトかどうかを判断します。

しかし、フィッシングサイトは、ロゴ、色、入力フォーム、文章まで本物に似せて作られます。見た目だけで正規サイトか判断することは簡単ではありません。

一度パスワードを入力すると、入力された文字列を攻撃者が受け取り、正規サイトへ転用できる可能性があります。OTPも人が番号を入力する方式であるため、リアルタイムに盗まれて転送される危険が残ります。

6-2. パスキーではブラウザと端末がドメインを確認する

パスキーでは、利用者の注意力だけに頼りません。

Chrome、Safari、Edgeなどのブラウザと、Windows、iPhone、Androidなどの端末側が、現在開いているWebサイトのドメインと、そのパスキーを利用できるWEBサービスの範囲を確認します。

パスキーの仕様では、認証を受け付けるWEBサービス側をRP(Relying Party)と呼びます。また、パスキーを利用できるWebサイトの範囲を示すドメイン情報をRP IDと呼びます。

6-3. 見た目が同じでも、別ドメインなら別のWebサイト

たとえば、次の2つは人の目には似て見えるかもしれません。

  • 正規サイト:example-bank.co.jp
  • 偽サイト:example-bank-login.com

しかし、ブラウザと端末から見ればドメインが異なる別のWebサイトです。

正規サイト用に登録されたパスキーは、別ドメインの偽サイトから利用できません。偽サイトが正規サイトと同じ見た目を作っても、正規サイト用の秘密鍵を呼び出して署名させることはできません。

6-4. パスキーはサービスごとに異なる鍵を使う

同じ利用者でも、銀行用、証券会社用、ECサイト用など、それぞれ別のパスキーが作られます。

パスワードのように、利用者が同じ文字列を複数サイトで使い回すことはありません。仕組みとしてサービスごとに認証情報が分かれます。

一つのWEBサービスから公開鍵などの登録情報が漏れたとしても、その情報を別のWEBサービスへのログインに使い回すことはできません。

6-5. 「フィッシングに強い」の正しい意味

パスキーは、偽サイトへパスワードやOTPを入力させ、その認証情報を正規サイトへ転用するタイプの攻撃に非常に強い仕組みです。

ただし、偽サイトの表示そのものを防ぐ技術ではありません。また、ログイン後に利用者をだまして送金させる詐欺、端末そのものへのマルウェア感染、ログイン済みセッションの乗っ取りなど、すべての攻撃を自動的に防ぐものではありません。

それでも、パスワードやOTPを盗んで再利用するという、従来の認証で大きな問題となっていた攻撃経路を、仕組みから成立しにくくする点に大きな価値があります。

正規サイトとフィッシングサイトを左右に比較する横長16対9の法人向けフラットイラスト。左に正規ドメインの銀行サイトと緑のチェック、端末内の正規サイト用パスキーが利用できる構図。右に見た目は似ているが別ドメインの偽サイトと赤い停止マーク、パスキーの鍵が選択されず署名できない構図。中央にChrome、Safari、Edgeをイメージしたブラウザとドメイン確認の盾を置く。添付参考画像のような淡い青・青緑、白背景、やさしい手描き風。文字は『正規ドメイン』『別ドメイン』『使用不可』程度に限定する。

7. パスキーを登録するとき、何が起きているのか

7-1. 最初に、そのサービス専用の鍵ペアを作る

パスキーでログインする前には、そのWEBサービスにパスキーを登録する必要があります。

登録時には、端末やパスキープロバイダーが、そのWEBサービス用の公開鍵と秘密鍵のペアを新しく作ります。

  1. 利用者が「パスキーを登録」を選ぶ
  2. WEBサービスが登録用の一度限りの情報を送る
  3. 端末が顔・指紋・PINなどで利用者を確認する
  4. 端末やパスキープロバイダーが鍵ペアを作る
  5. 秘密鍵は利用者側で保護する
  6. 公開鍵と識別情報をWEBサービスへ登録する

7-2. 秘密鍵をWEBサービスへ預けるわけではない

パスキー登録という言葉から、秘密鍵をWEBサービスへアップロードするように感じるかもしれません。

しかし、WEBサービスへ登録する中心的な情報は公開鍵です。秘密鍵は、端末、セキュリティキー、パスキープロバイダーなど、利用者側の管理範囲で保護されます。

7-3. 登録前の本人確認が非常に重要

パスキーは登録後のログインを強固にします。しかし、その前提として、正しい人物のパスキーが正しいアカウントへ登録されていなければなりません。

もし攻撃者が他人のアカウントへ自分のパスキーを登録できてしまえば、その後のパスキー認証は正しく動作していても、攻撃者を正しい利用者として扱ってしまいます。

ログインが簡単になるほど、登録時の本人確認が重要になります。

そのため、パスキーの登録前には、サービスの性質に応じて次のような確認が行われます。

  • 現在のパスワードによるログイン
  • SMS・メール・認証アプリによる追加確認
  • 登録済みパスキーによる再認証
  • 本人確認書類やオンライン本人確認
  • 会社の管理者による承認
  • 会社から配布された端末であることの確認

7-4. 追加・削除・紛失・復旧までが一つの運用

安全なパスキー運用は、最初の登録だけで終わりません。

新しいパスキーの追加、不要になったパスキーの削除、スマートフォンの紛失、機種変更、すべてのパスキーを失った場合のアカウント復旧まで考える必要があります。

復旧方法が簡単なメール確認だけなど、パスキーより大幅に弱い仕組みになっていると、攻撃者はパスキーそのものではなく復旧手続きを狙います。

パスキー登録の流れと登録前の本人確認の重要性を示す横長16対9の法人向けフラットイラスト。左から既存ログインまたは本人確認、強い確認ゲート、端末で顔・指紋・PIN、公開鍵と秘密鍵の生成、公開鍵だけをWEBサービスへ保存、秘密鍵は端末側に残る流れを矢印で描く。不正な第三者の登録を盾で防ぐ表現。添付参考画像に近い淡い青・青緑、白背景、親しみやすい人物。画像内の文字は『本人確認』『鍵生成』『公開鍵』『秘密鍵』だけにする。

8. パスキーはどこに保存され、なぜ別の端末でも使えるのか

8-1. Apple・Google・Microsoftは、身近なパスキー基盤を提供している

パスキーの説明でApple、Google、Microsoftの名前が頻繁に登場するのは、多くの利用者が使っているOS、ブラウザ、端末、アカウント管理機能を提供しているからです。

これらの企業は、単に顔認証の機能だけを提供しているわけではありません。

  • 鍵を作成・保護する端末側の認証機能
  • 顔・指紋・PINを表示する本人確認画面
  • Chrome、Safari、Edgeなどのブラウザ
  • パスキーの保存・同期・復旧に関係するアカウント基盤

こうした複数の仕組みが一体になっているため、利用者には「ボタンを押して顔認証するだけ」に見えます。

8-2. Windowsではどこが担当しているのか

Windows環境では、Windows Helloが顔、指紋、PINによる本人確認を担当します。

Webサイトとのやり取りはChromeやEdgeなどのブラウザが仲介し、Windowsのセキュリティ機能と連携してパスキーを利用します。

利用環境によっては、Windows端末内のパスキーだけでなく、Googleパスワードマネージャー、スマートフォン、セキュリティキーなど、別の保存先を選択できる場合もあります。

8-3. Apple製品ではどこが担当しているのか

iPhone、iPad、Macでは、Face ID、Touch ID、端末パスコードが本人確認を担当します。

パスキーはiCloudキーチェーンを通じて保護・同期され、Appleの「パスワード」アプリなどから確認できます。同じApple Accountを使う端末で利用しやすく設計されています。

8-4. Androidではどこが担当しているのか

Androidでは、Googleパスワードマネージャーが代表的なパスキー保存先です。

Android端末の指紋、顔、PIN、パターンなどで本人確認し、Chromeや対応アプリからパスキーを利用します。

8-5. パスキープロバイダーとは何か

AppleのiCloudキーチェーン、Googleパスワードマネージャー、対応するパスワードマネージャーなど、パスキーの保存、利用、同期、復旧を管理する仕組みを、一般にパスキープロバイダーと呼びます。

先に具体例を知ると、パスキープロバイダーという言葉も理解しやすくなります。

8-6. 顔画像や指紋画像が同期されるわけではない

パスキーが複数端末で使えると聞くと、顔情報や指紋情報もクラウドに同期されているのではないかと不安になるかもしれません。

しかし、顔画像や指紋画像をWEBサービス間で共有し、同じデータを使って照合しているわけではありません。

各端末は、その端末に登録されているFace ID、Touch ID、Windows Hello、Androidの指紋やPINなどを使って、パスキーを利用してよい人物かを確認します。

8-7. 同期されるパスキーと、特定の機器に固定されるパスキー

パスキーには、パスキープロバイダーを通じて複数端末で使いやすいものと、特定の端末やセキュリティキーに固定されるものがあります。

種類 イメージ 代表例
同期されるパスキー 同じアカウントで管理する複数端末から利用しやすい iCloudキーチェーン、Googleパスワードマネージャーなど
端末・機器に固定されるパスキー 鍵を保持する特定の端末や機器で利用する 一部の端末内認証器、USBセキュリティキーなど

一般利用者向けのサービスでは、機種変更や複数端末での利用がしやすい同期パスキーが便利です。一方、企業の管理者や高い権限を持つ利用者では、会社支給端末や特定のセキュリティキーへ限定する考え方もあります。

Apple、Google、Microsoftとパスキープロバイダーの役割を身近な製品と結び付けて示す横長16対9の法人向けフラットイラスト。左にWindows PCとWindows Hello・Edge、中央にiPhoneとMac・Face ID・iCloud、右にAndroidスマートフォン・指紋・Chrome・Googleパスワードマネージャーを配置する。上部に保護されたクラウド同期、下部に各端末固有の顔・指紋・PIN確認を描き、顔や指紋はクラウドへ流れないことを示す。添付参考画像のような明るい青緑系、白背景、人物と端末を柔らかく描く。画像内文字は企業・製品名と『Passkey Provider』程度に限定する。

9. 別のパソコンからスマートフォンのパスキーを使える理由

9-1. パソコンにパスキーがなくてもログインできる

自宅や会社のパソコンではなく、別のパソコンからログインするとき、画面にQRコードが表示されることがあります。

これは、スマートフォンに保存されているパスキーを、その場の認証器として利用する仕組みです。クロスデバイス認証と呼ばれます。

  1. パソコンのブラウザでパスキーログインを開始する
  2. パソコン画面にQRコードが表示される
  3. スマートフォンでQRコードを読み取る
  4. スマートフォン上で顔・指紋・PINによる本人確認を行う
  5. スマートフォン内のパスキーで署名を作る
  6. 認証結果がパソコン側のログイン処理へ戻る

9-2. 秘密鍵がパソコンへコピーされるわけではない

クロスデバイス認証では、スマートフォンの秘密鍵をパソコンへ移動させるわけではありません。

秘密鍵はスマートフォン側で使われ、スマートフォン内で署名が作られます。パソコン側へ戻るのは認証結果であり、秘密鍵そのものではありません。

9-3. QRコードを撮影しただけでは認証できない

QRコードを読み取れば、遠く離れた第三者でも自由にログインできる構造ではありません。

実際の処理では、QRコードに含まれる一時的な情報、スマートフォン側の本人確認、暗号化された通信、Bluetoothなどを利用した近接性の確認が組み合わされます。

QRコードは秘密鍵そのものでも、ログインを完了させる万能な鍵でもありません。その場のパソコンとスマートフォンを安全に結び付けるための入口です。

9-4. カメラのないパソコンでもスマートフォンを利用できる

パソコン側に顔認証用カメラや指紋センサーがなくても、スマートフォン側で本人確認を行えるため、パスキーを利用できる場合があります。

「自分のパソコンには生体認証装置がないからパスキーは使えない」という誤解は、この仕組みを知ると解消できます。

クロスデバイス認証を左から右へ示す横長16対9の法人向けフラットイラスト。左にカメラや指紋センサーのないデスクトップPCとQRコード、中央に利用者がスマートフォンでQRを読み取り顔認証またはPINを行う場面、右にWEBサービスのログイン成功画面を配置する。スマートフォン内の秘密鍵は外へ出ず、署名結果だけが安全な経路で戻る矢印を描く。Bluetooth近接確認を小さな電波アイコンで表現する。添付参考画像のような明るく親しみやすい青・青緑系、清潔なオフィス背景。文字は『QR』『本人確認』『署名』『ログイン成功』程度に限定する。

10. 操作は簡単でも、パスキーの実装と運用は単純ではない

10-1. Webサイトに顔認証ボタンを付ければ完成するわけではない

利用者から見ると、パスキーはボタンを押し、顔や指紋、PINを確認するだけです。

そのため「Webサイトに顔認証ボタンを付ければ簡単に実装できるのではないか」と感じるかもしれません。

しかし、WEBサービス側では、少なくとも次のような処理と運用が必要です。

  • 登録時とログイン時に、一度限りのChallengeを安全に生成する
  • Challengeを再利用できないように管理する
  • 正しいドメインとWebサイトからの処理であることを確認する
  • 端末から返された署名を公開鍵で検証する
  • 公開鍵や識別情報を正しいユーザーへ紐付ける
  • 不正な第三者がパスキーを登録できないようにする
  • 複数パスキーの追加・名称変更・削除を管理する
  • 端末紛失や機種変更時の復旧方法を用意する
  • 認証成功後のログインセッションを安全に発行する
  • 不審な登録や削除を利用者へ通知し、監査ログを残す

10-2. FIDO2とWebAuthnは、異なる製品を共通ルールで動かす

Windows、iPhone、Android、Chrome、Safari、Edge、セキュリティキー、銀行、証券会社、ECサイトなど、提供会社も製品も異なるものがパスキーで連携できるのは、共通の標準仕様があるからです。

この公開鍵認証の大きな枠組みがFIDO2です。

FIDO2用語 解説
WebAuthn WEBサービス、ブラウザ、認証器が連携して登録・認証を行うためのWeb標準
CTAP パソコンとUSBセキュリティキー、またはパソコンとスマートフォンなど、ブラウザ側と外部認証器が連携するための通信仕様

一般の利用者がこれらの仕様を覚える必要はありません。

大切なのは、Appleだけ、Googleだけ、Microsoftだけの独自技術ではなく、異なる会社のOS、ブラウザ、端末、WEBサービスが共通ルールで安全に連携できるよう設計されていることです。

10-3. パスキーは万能ではない

パスキーは、特に次の問題を大きく減らす技術です。

  • パスワードの使い回し
  • パスワードデータベースの漏えいによる不正利用
  • 偽サイトへパスワードやOTPを入力させるフィッシング
  • パスワード忘れとリセット対応
  • SMSやメールOTPの未着、遅延、入力負担

一方で、次のような問題を自動的にすべて解決するものではありません。

  • 不正な人物へパスキー登録を許してしまう
  • 弱いアカウント復旧手続きが用意されている
  • 端末やOSそのものが深刻なマルウェアに侵害される
  • ログイン後のセッションやCookieが盗まれる
  • ログイン後に利用者がだまされ、送金や重要操作を実行する

パスキーの特長と限界を正しく理解し、登録、認証、復旧、セッション管理まで含めて設計することが重要です。

10-4. なぜ銀行・証券会社・大規模サービスが採用するのか

従来のセキュリティ対策では、安全性を高めるほど利用者の操作が増える傾向がありました。

長いパスワード、定期変更、SMS認証、認証アプリ、リカバリーコードなどを組み合わせるほど、利用者にも運営者にも負担が増えます。

パスキーは、利用者の操作を簡単にしながら、次のような効果を期待できます。

  • 偽サイトへ入力して盗まれる秘密情報をなくす
  • サービスごとに異なる鍵を自動的に利用する
  • パスワードリセットやOTP送信の運用負担を減らす
  • スマートフォンやパソコンの普段の本人確認操作を利用する
  • 重要なログインや承認操作を、より安全かつ短時間で行う

安全性と使いやすさを同時に改善できることが、多くのWEBサービスから注目される大きな理由です。

利用者には簡単だが裏側では多くの技術が連携していることを示す横長16対9の法人向けフラットイラスト。手前にスマートフォンでワンタッチ認証する一般利用者、背後にWEBサービス、Chrome・Safari・Edge、Windows・Apple・Android、公開鍵データベース、Challenge、ドメイン確認、署名検証、復旧、監査ログをアイコン中心で配置する。複雑な裏側を一つの安全なクラウド基盤へ集約する構図。添付参考画像に近い明るい青・青緑、白背景、清潔な法人向け手描きイラスト。画像内文字は『簡単な操作』『安全な仕組み』『FIDO2』程度に限定する。

まとめ:パスキーの安全性は、顔認証だけで生まれているのではない

パスキーを画面上の操作だけで見ると、顔認証や指紋認証、PINでログインする便利な機能に見えます。

しかし、その安全性は、次の仕組みが組み合わさることで成立しています。

  1. 顔・指紋・PINは、端末内で鍵を使ってよい人物か確認する
  2. WEBサービスごとに異なる公開鍵と秘密鍵のペアを使う
  3. 秘密鍵そのものをWEBサービスへ送らない
  4. ログインのたびに異なるChallengeへ署名する
  5. Chrome、Safari、Edgeなどのブラウザと端末がドメインを確認する
  6. 偽サイトでは正規サイト用のパスキーを利用できない
  7. WEBサービスは公開鍵を使って署名を検証する

パスキーが安全なのは、利用者がだまされないよう注意するからではありません。

人が秘密を覚えない、秘密を入力しない、秘密をWEBサービスへ送らない、偽サイトでは正規サイト用の鍵を使えないという構造によって、認証情報を盗んで再利用する攻撃を成立しにくくしています。

一方で、パスキーの登録、追加、削除、紛失、復旧、ログイン後のセッション管理まで自動的に安全になるわけではありません。WEBサービス側には、パスキーの強さを損なわない運用設計が求められます。

利用者から見える操作は簡単でも、裏側では公開鍵暗号、ドメイン確認、ブラウザとOSの連携、署名検証など、多くの技術が働いています。

この仕組みを知ると、パスキーが単なる顔認証の呼び方ではなく、パスワード認証が抱えてきた問題を根本から見直すために設計された技術であることが理解できるのではないでしょうか。

ハネソルではパスキーを利用したシステム開発をご相談いただけます

ログイン以外の本人確認や重要操作にも活用できます

パスキーはWebサイトへのログインだけでなく、重要な操作を実行する直前の再認証、申請や決裁の承認、会員情報変更時の本人確認などにも利用できます。

簡単な画面の裏側に必要な仕組みを設計します

パスキーの導入には、ブラウザ上の認証画面だけでなく、Challengeの管理、公開鍵と利用者の紐付け、署名検証、登録・削除・復旧、セッション管理、監査ログなどの設計が必要です。

ハネソルでは、既存のWEBサービスや業務システムに合わせたパスキー認証の設計、実装、API連携についてご相談いただけます。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。